組織の力

2017.09.19

企業戦略としてのテレワーク〈前編〉

準備不足のテレワーク導入は必ず行き詰まる

2016年に打ち出された働き方改革の中核として、「テレワーク」という働き方が注目されているが、これまでは「福利厚生の一環として企業が社員に提案する働き方」と認識されてきており、導入企業はまだ多くはない。しかし、株式会社テレワークマネジメントの代表取締役であり、テレワーク推進の第一人者として知られる田澤由利氏は「テレワークは福利厚生ではなく、企業が生産性を向上させるための新戦略です」と力説する。テレワークによって働き方や企業の生産性はどのように変わるのか、お話をうかがった。

企業の土壌が変わらなければ
導入しても根づかない

当事者意識の薄いワーカーが多いことだけでなく、テレワーク利用者の増加にブレーキをかけている要因はほかにもあるという。
「端的に言うと、企業側の準備不足です。在宅勤務の導入にはハード面においてもソフト面においてもそれなりの仕組みが必要ですが、行き当たりばったりで在宅勤務制度をスタートする企業は必ず行き詰まります」
 その具体例として、田澤氏は次のようなケースを挙げる。
「テレワークのための態勢づくりを行わないまま制度を導入した企業では、社員が在宅勤務をするとなった場合、在宅でできる仕事を切り分けて渡そうとします。しかし在宅で行える業務といっても、資料作成やデータ入力、翻訳など限られていることが多いため、『渡せる仕事がない』という壁にぶつかってしまうのです。また、上司が在宅で働く社員から業務開始・終了の電話を受けるなど今まで必要のなかった業務が新たに発生することもあり、上司も在宅勤務を行う社員も不便を感じがちです」
 さらに、社員間に生じる心理的な壁も見逃せない。在宅勤務者の上司は、「働いている姿を間近で見られないから不安」と感じることが多い。また在宅勤務者も、上司の目が届かないことから「怠けていると思われるのではないか」と懸念し、アウトプットを出すために夜遅くまで働き続けてしまうケースがある。結果として、「これほど大変なら出社して働く方がいい」と在宅勤務を取りやめる社員も少なくない。
 このような轍を踏まないためには、企業はテレワーク開始にあたってどのような準備を整え、どんな心構えを持てばいいのか。後編で詳しく紹介していこう。

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田澤 由利(Tazawa Yuri)

株式会社テレワークマネジメント/株式会社ワイズスタッフ代表取締役。上智大学卒業後、シャープ株式会社での商品企画やフリーランスのライターを経て、在宅型テレワークの可能性に注目する。1998年に北海道北見市で在宅ワーク仲介会社として株式会社ワイズスタッフ、2008年に株式会社テレワークマネジメントを設立。2015年、テレワーク普及推進に貢献したとして総務大臣賞を受賞。著書に『在宅勤務(テレワーク)が会社を救う 社員が元気に働く企業の新戦略』(東洋経済新報社)など。

株式会社テレワークマネジメント
テレワークの普及を目的として2008年に設立。テレワーク導入支援コンサルティングのほか、テレワーク用システム「F-Chair+(エフチェアプラス)」の販売や、テレワークに関する講演・研修、調査・分析などを行っている。2015年に「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」特別奨励賞を受賞。

文/横堀 夏代  撮影/田村 裕未