仕事のプロ

2017.04.24

「BABAラボ」にみる、高齢化社会のコミュニティビジネス

地域のシニアがもつ経験やアイデアをビジネスに活用

地域社会とのつながりをもたず、生きがいを見いだせない高齢者が増えている。また、人口減にともなう労働者不足により、働き手として中高年の存在がクローズアップされつつある。これらの問題における一つのソリューションといえるのが、おばあちゃん世代の女性が集まって働く工房「BABAラボ」だ。設立者の桑原静さんに、地域社会の課題をビジネスによって解決する手法についてお話を伺った。

「生きがい」と「地域コミュニティ」を
原点にシニアが働く場所を創設

 
おばあちゃんのコミュニティだから「BABAラボ」。年配女性だけでなく、子育て世代が子どもと一緒に訪れることもある。おばあちゃんが子どもたちと話しながら商品制作にいそしんだり、二階のオフィスルームでは常駐スタッフが会議をしていたり。「働く」と「交流する」が自然に融合するこの場で、どの世代も生き生きと過ごしている。
 埼玉県さいたま市で2011年に誕生した「BABAラボ」は、「100歳までいきいきと働き・暮らせる社会に」という理念のもとに、地域の高齢女性が集まって働く工房だ。現在ではおばあちゃんたちのほかに、スタッフとして子育て世代の女性とその子どもたちが出入りする。営業や経理など組織運営を担う5人のパート社員も働いている。お年寄りに支払う報酬は、基本的には完成品一つに対しての出来高制。そのため、1か月分の給料は、数万円から数百円と幅広い。近年は、おばあちゃんたちの“育婆”経験を活かしたオリジナルの「孫育てグッズ」が話題となり、脚光を浴びている。コペンハーゲンIT大学の安岡美佳助教授は、BABAラボを「コミュニティ発のリビングラボ」と位置づけ、「地域の潜在資産であるおばあちゃんたちを巻き込んだビジネスモデルが画期的」と注目する。
 
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 BABAラボは当初、手芸の上手なお年寄りが特技を活かして働くものづくり工房としてスタートした。代表の桑原静さんは、設立の経緯を次のように語る。
「そもそも私がおばあちゃん子だったこともあり、『お年寄りがもっと輝ける場があればいいのに』と感じていました。地方では一次産業や伝統工芸品の制作など、高齢者が活躍する場面がみられます。でも首都圏では、働くにしても裏方的な役割が多く、好きな仕事をしているとはいえないケースもみられます。お年寄りが特技を生かして働く場をつくることで、自信を持って充実した人生を送るお手伝いがしたかったのです」
 さらに桑原さんの胸にあったのは、「お年寄りが“ここは自分の居場所”と感じられるような地域のコミュニティをつくりたい」という思いだった。近年は、一人暮らしで誰とも話さずに一日を終えるお年寄りが増え、地域の人々とつながりを持たない高齢者の存在が問題になっている。集まって働ける場所があれば問題解決の一助になるのではないか、と考えたそうだ。
 
「生きがいを感じながら働ける場」と「地域コミュニティ」。二つの要素を持つ場をつくるうえで用いたのは、コミュニティビジネスという方法だった。
桑原さんはもともと、NPO法人コミュニティビジネスサポートセンターに勤務し、全国の自治体などを対象にコミュニティビジネスの事業相談を受けたり、ビジネス講座の講師を務めたりする活動をしていた。コミュニティビジネスとは、地域が抱える課題を、市民が中心となってビジネスの手法により解決する事業を指す。ボランティアは「資金が尽きたら終わり」などの問題が起こりがちだが、ビジネスの形をとれば取り組みが継続しやすいうえ、地域に雇用を生むなどのメリットもある。桑原さんは、コミュニティビジネスの支援に大きなやりがいを感じていた。
 ただ、勤務を続けていく中でいつしか、「知識だけでアドバイスをするのではなく、自分でもコミュニティビジネスを実践し、苦労しながらノウハウを積み重ねることで初めて本当の支援ができるのではないか」と思うようになったそうだ。そこでまずは、地元であるさいたま市の地域に根ざしたコミュニティビジネス運営をサポートする「シゴトラボ合同会社」を2011年に設立。そして同年、コミュニティビジネスの現場として「BABAラボ」を立ち上げた。桑原さんが住むさいたま市にも独居老人は多い。シニアが働きながらコミュニティをつくれる場所の創設は、地域課題の解決につながると感じたことが創業の決め手となった。
 
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BABAラボ

「100歳までいきいきと働き・暮らせる社会に」という理念のもとに、高齢女性が特技を生かしながら働き、地域社会とつながれる職場として2011年にオープン。おばあちゃんの意見を生かした「孫育てグッズ」の開発・製造や、高齢者の本音に迫るマーケティング・調査事業などを展開。2016年発売の、目盛りが見やすく持ちやすい哺乳瓶『ほほほ ほにゅうびん』は、キッズデザイン賞少子化対策大臣賞などを受賞。

文/横堀夏代 撮影/曳野若菜
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