組織の力

2016.04.26

新興国への留職が日本企業の在り方を変える日〈前編〉

今、ビジネスマンに必要なのは、スキルではなく、マインドだ!

社会課題に取り組む新興国のNPOや企業に人材を派遣。本業を活かして社会課題解決に挑む「留職」プログラムを提供するクロスフィールズ。日本企業の人材育成をしながら、同時に新興国の課題解決も求められる、日本ではまだ珍しい研修プログラムを提供している。パナソニック、日立製作所、ハウス食品、日産自動車など、大手企業が次々と導入しているプログラムとは? 代表を務める小沼大地さんに、今、日本企業に必要なこと、そして、これから必要とされる人材についてお話を伺った。

「志」や「想い」なくして
仕事のスキルは上がらない

「新興国への留職」と聞いて、どんなイメージが浮かぶだろう。向かう国にもよるだろうが、まさかTOIECの点数を上げる語学研修やMBA取得とは思わないはず。そう、「留職」は、数ある企業研修とは全く異なり、「志」や「想い」を持って働く人材を育てる環境を提供する、ある意味「人間教育」ともいえる研修プログラムなのだ。


「もはやスキルを上げる研修ばかりしても無意味ではないかと思います。英語が話せるようになったり、マネージメント能力を上げることも必要です。でも、働く根本を支えているのって何でしょうか? 自分はこの仕事で成し遂げたいことがある! そういった『志』や『想い』、マインドですよね。これさえあれば、スキルはいくらだって伸ばすことができます。でも、逆はいくらやっても効果が上がらないことに、多くの日本企業も気がついているのではないでしょうか」

本当はどういうことをやりたいのか? 自分は人生で何を成し遂げたいのか? 自分の天職とは? そんな熱い話ができる同僚が、上司が、仲間がいるなら恵まれている。今の日本社会の中では、どこかそういった話は後回しにされがち。「だからこそ、今、そこに真剣に向き合い、考え抜く必要がある」と、力強い眼差しで語るのは、クロスフィールズ代表の小沼大地さんだ。


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青年海外協力隊で行った
シリアにあって日本にないもの

「志」や「想い」を持って働く------。理想ではあるが、どこかきれいごとのようにも聞こえる言葉が、小沼大地さんから発せられると「そうだ!」と、目が覚める感覚がある。それは彼自身が「志事(しごと)」と向き合って生きているからだろう。


「もともとは志を持って就職して、会社で成し遂げたいことがあった人は、実は多いんじゃないでしょうか。日本人には、そういった真面目さ、社会に貢献したい想いがある人は多い。ただ、利益が上がればいい、自分が稼げればいいだけで就職先を決めた人は、少ないと思うんです」

「留職プログラム」の発想の原点には、彼が大学卒業後、青年海外協力隊に参加していた2年の間に、目の輝きを失った友人たちの姿がある。

「僕が行ったシリアの人たちは貧しくても、目を輝かせて働いていました。一方、日本に帰国したら、友人たちの目は輝いていない。学生時代にあんなに『僕はこんな仕事をするんだ!』と熱く語っていた友人たちが、就職してたった2年で変わってしまった。シリアで働く人と日本で働く友人、この違いにカルチャーショックを受けたんです」
今でも、帰国後に行った飲み会の風景を忘れられない......という小沼さんは、目の前の数字に追われてしまい、社会に貢献している実感がわかないこと、自分の仕事が"誰のありがとう"に繋がっているのかが見えないことが、日本企業で働く人たちのマインド、志を喪失させているとも。

「新興国では、何で野菜をつくっているのかと尋ねれば、"誰々さんが困るでしょ"とか、何で家を建てているの? と聞けば"家が建つと町が豊かになるから"といったふうに、自分が働くことが自分の家族やコミュニティの"豊かさ"に繋がることがわかっているんです」
一方、日本は目覚ましい成長を経験し、企業規模が大きくなるにつれ、個人が会社の中で、それを感じることが難しくなった。例えば、サーバーのシステムのメンテナンスをしている人は、誰の生活に役立っているのか? 想像することはできても、もうリアルに実感することが難しいタームに突入している。



小沼 大地(Konuma Daichi)

大学卒業後に青年海外協力隊としてシリアに赴任し、現地NGOにてマイクロファイナンスの事業に従事。その後、外資系コンサルティングファームを経て2011年にクロスフィールズを創業。社会課題の現場をビジネスの世界とつなぐことで、行き過ぎた資本主義の世界に対して一石を投じるとともに、ソーシャルセクターの発展に貢献したい。大のスポーツ好きで、広島カープファン。大学時代はラクロスに捧げ、U21日本代表に選出されたことも。2児の父。

文/坂本真理 写真/曳野若菜